51:「第3回無線交信」   5月25日PM9:00〜PM9:15


風速12から13メートルの吹雪の中、ピーターさんに乗せられてファーストエアー社に着く。オフィスには誰もいない。5分前、チャンネルを合わせ、ボリュームを大きくして待つ。

1分前、大場さんに呼びかける

私・・・・・「大場エクスペディション・大場エクスペディション ジェスイズ
           69レゾリュート 大場さん聞こえますか」

 応答なし・・もう一度呼びかける

大場さん・・・「ジェスイズ大場エクスペディション・・・・・・・・」

 かすかに聞こえる。前回交信時と同様にはっきり聞き取れない。スピーカーに耳を寄せ集中して聞き耳をたてる。メモを見ながら質問を始める

私・・・・・「体調はどうですか?」
大場さん・・「大丈夫です。問題ありません。」
       と言ったように聞き取れるがはっきりしない

私・・・・・「天候はいいですか?」
大場さん・・「・・・・・・・・・・・・」
       話しているのはわかるが聞き取れない

私・・・・・「氷の状態はどうですか?」
大場さん・・「氷の状態も良くない。距離が伸びない。」

私・・・・・「食料はどのくらい残っていますか?10日分ですか15日分ですか。」
大場さん・・「次回補給の63日までは十分にあります。65日・・・・」

私・・・・・「次の補給に必要な物を準備していますが、何かありますか?」
大場さん・・「スキーのシール・・・・・・・・」

私・・・・・「種類はどんなものを用意すればいいか教えて下さい。」
大場さん・・「・・・・・・・・・・・・」
       細かく説明しているようだが、雑音のためほとんど聞き取れない。

私・・・・・「よく聞き取れないので次回交信時また聞きます。」

      「ゴムボートは使いましたか?」
大場さん・・「・・・・・・・・重いので捨てました」

私・・・・・「GPSで今の位置を教えて下さい。」
大場さん・・「・・・・・  ・・度60分・・・・」 聞き取れず。

イヌイットの交信がかぶって聞き取れない。こちらの声はよく聞こえているようだ。大場さんの声は、ほとんど内容を聞き取れない。

私・・・・・「よく聞き取れないのでイエスならラジャー、ノーならネガティブ
       でお願いします。
大場さん・・「ラジャーラジャー」

私・・・・・「前に預かったフィルムに極点での写真はありませんでした。今持
          っているカメラの中のフィルムにありますか?」
大場さん・・「ラジャーラジャー」

私・・・・・「山形放送で、2・3日前に前回補給の様子、特別番組で流れまし
          た。メッセージをくれた最上中学の生徒さんも喜んでいると思い
          ます。」
大場さん・・「ラジャーラジャー」

私・・・・・「新たな資金の援助があったので伝えます。」
      「光文社サマ JON72サマ ナコソカセイサマ ミヤウチキイ
       ロウサマ アウトバックフジムラサマ アラキノボルサマ

           ゴトウクツテンサマ ヤマガタケイザイレンサマ マルトクク
           ルセサマ」
大場さん・・「ラジャー ありがとうございます」

私・・・・・「デジタルハウスの斉藤さんよりメッセージが来ていますので読み
           ます。『大場さんがアーチェスキン岬を出発されて3ヶ月・・・』」
大場さん・・「ありがとうございます。よろしく伝えてください。」

私・・・・・「電波の状態がいいようです。再度スキーのシールについて教えて
           下さい。」
大場さん・・「・・・・・・・」 聞き取れず。
私・・・・・「よく聞き取れないので次回にまた聞きます。86度以南はリードが
           多くなってきますので、無理をせず気をつけてやってください。
           次回の交信を楽しみにしています。その他ありませんか?」
大場さん・・「・・・・にないです。」

15分間の交信でした。1回目と比べると2回目・今回とも、大場さんの声が聞き取りにくかったのですが、こちらの声は確実に聞こえているようなので、安心しました。(これは大場さんと基地局の無線機の出力の違いだと思います。)

ベースキャンプに戻ると、オランダチームのエドモントが、どうだったと心配気に聞いてきた。私が「よく聞き取れなかった。大場さんはスキーのシールを欲しがっている。」と言うと彼は私に「持っているか?」と聞く。

私が「前回補給時に持って行ってしまい、ここにはない」と話すと彼は親身になって心配してくれた。彼は「仲間が持っているのでガレージに来てくれ」と言う。スキーのシールにもいろいろあるし、大場さんの使っているスキーのサイズを知りたいらしい。予備のスキーを見せる。

彼は仲間のハンズに事情を話し、「大場さんに譲ってやれ」と話してくれている。520日、彼ら4人のチームは苦労を重ね北極点に到達している。自分達が困った時のことを思い出し、他人事でなく心配してくれているのが、オランダ語のわからない私にも十分伝わってくる。

ハンズが自分のシールを私に差し出した。私が「いくら払えばいい」と値段を聞いてもいいものかどうか言葉につまりためらっていると、彼はにっこり笑い私の肩を抱き「ありがとうだけでいいんだよ」と言うように「サンキューベリーマッチ」と言った。言葉の前に気持ちが伝わってきた。いいようもなくうれしい瞬間だった。

              レゾリュートベースキャンプにて  志賀

52:「第4回無線交信」   5月28日 PM9:00〜


前2回と比べると大場さんの声が大変良く聞き取ることができた。心配していたリード(開氷面)はあるが、上に薄氷が張っているので、スキーをつけて歩けるそうだ。大場さんと相談し、次回の補給日は6月3日に予定する事に決定した。

補給品の内容
食糧20日分 燃料ホワイトガソリン10リッター

ぺミカン以外の要望食品

紅茶(前回より多め) 粉ミルク(ペミカンに入れて食べるので前回より多め)
ラード はちみつ オイル(食用)ラーメンにあざらし肉と一緒に食べる

砂糖2キログラム ラーメン クッキー チーズ アメ ピーナッツバター
チョコレート カロリーメイト コーヒー むぎこがし 食パン

大場さんは荒木先生に作って頂いたチョコレートを欲しがっていた。その中にはオイルが十分入っているので昼食にとると夜までもつそうだ。今回は準備できなかったので、チョコレートとオイルを混ぜて飲むという。

それから、眠れない時に飲むのにコーヒーを頼まれた。コーヒーは普通は飲むと逆に目が覚めるのではないかと思われるが・・・・
それと、むぎこがしを頼まれた。むぎこがしはカナダにはないかな?と笑っていたが、砂糖をたっぷり入れてお湯で溶いて食べるのだそうだ。

それ以外の要望は
スキーのシール(オランダチームに分けて貰って準備済み)
シャベル(パドルにも使う:5月28日レゾリュートで製作済み)
厚手の靴下(凍傷で失くなったつま先に負担がかかっているらしい)2足分

「日本から持ってきた凍傷の薬は、よく効いてすぐカサが張って足がポカポカし、すぐ治る。手配してくれた光文社の山本さんにお礼を言ってください。」とのメッセージあり。

今日は天気が良かったが、前日までホワイトアウトで視界が1メートル位しか見えず、距離が思うように伸びないと言っていた。前回大場さんに渡した私のビデオでいろいろ映しているようだ。バッテリーの交換方法がわからず、今日の無線交信で説明することができ、上手く交換できた。

次回補給時、ビデオ用バッテリーとテープを希望された。大場さんの行動を後で見れるのが楽しみだ。又ゴムボートへの空気入れを希望。ワーズハント島に近づくにつれ、オープンウォーターがある。これからが難しくなると思われる。

前回補給した「カメラマンの土谷さんから頂いた羊羹」についての感想を聞いたら大場さんは「最高だった。1本ペロリと食べました」と笑っていた。寒い所では、甘い物と油っぽい物が相当欲しくなるようだ。

このことは、以前私がレゾリュートでイグルー(氷の家)を作って夜をあかした時、体験した。体を動かしているうちは、あまり寒さを感じないが、休むと途端に体が震えてくる。その時、河野さんチームのペミカンを食べさせてもらったが、油がういているような食べ物が本当においしく感じて体が暖まった。

次回交信予定は5月31日午後9時
最後に大場さんは、支援してくれている人達へ
 「ようやく北緯86度まで来たが、まだけっこう残って
 いる。できるだけやっ
  てよい知らせを届けたい。
 ワーズハントまで頑張る。」

と力強いメッセージがあった。

       528日PM2400 レゾリュートベースキャンプにて 志賀

 63日の補給については、ドロップオフ(空中投下)を前提にする事を打
  ち合わせた。これは、着陸しようとすると滑走路になるような場所を見つ
  けなければならず、着陸準備に時間がとられるのを防ぐため。
  補給の最終打ち合わせ(現地の天候確認等)は62日夜9時とした。


53:「第5回無線交信」   5月31日 PM9:00〜


5
31日午後9時過ぎ、前に予定が入っていたファーストエアー社のマネージャー グレッグさんの無線交信が終わり、5210.0の周波数に合わせると待っていたかのように大場さんの声が入る。

残念なことに電波の状態が悪い。天候の状態を聞く。

「曇り・・・・・・・」その後聞き取れず。
「風向きは南から北・・強い・・」かなり聞き取りにくい。大事な事から話し始める。

私・・・・・「次回の補給は63日予定ですが了解ですか」
大場さん・・「ラジャーラジャー」
私・・・・・「最終打ち合わせは、62日午後9時の交信でいいですか」
大場さん・・「ラジャーラジャー」

私・・・・・「63日は、朝7時・8時・9時とグレッグさんが、大場さんのいる
      場所の天候を確認したいので、大場さんの無線機のスイッチ
を入れて
      ほしいそうです。了解ですか」

大場さん・・「ラジャーラジャー」

大場さんにはこちらの話はよく聞き取れているのがわかる。63日の補給は、朝7時に大場さんのいる場所を無線交信で確認し、気象観測基地のあるユーレイカで給油、現地へ向かうスケジュールだ。

63日の大場さんの位置は、目的地ワードハント島まで約280km以下だろう。レゾリュートから途中での給油時間を入れても6時間位で行けるはず。朝9時に出発すれば、午後3時には補給物資を届けられる。そのことを大場さんに無線で手短に伝える。

それと既に用意した別紙の補給品を読み上げる。前回の無線交信時に大場さんから要望された物は全て揃えることができたことを伝えると大場さんは
 「ラジャーラジャー 有難うございます」
とうれしそうな返事だった。

燃料(20日分のホワイトガソリン)10リッターと食糧20日分ということだったが、多めに用意した。食料は39キログラムになった。(普通は11キログラムを最低必要)通常の倍位の量になったが、大場さんが相当空腹のようなので、十分に用意した。

最後にカナダ在住の大場さんの友人である柴田さん(大場さんの鼻が凍傷でひどいという情報が入った時、緊急病院を手配してくれた方)からのメッセージを読み上げた。再度次回の交信時間を確認して無線交信を終わった。こちらからの話は伝わったのだが、大場さんの話が聞けなかったのが残念だった。

         レゾリュートベースキャンプにて  志賀