28,「北極点に飛ぶ」    423   ・・・補給状況

最北の燃料給油基地ユーレイカを423日午前1140分に出発。

機内にはドラム缶9本(1800リッター)、機体にはドラム缶10本(2000リッター)の燃料を積む。非常に重い。ほとんど燃料だ。高度11000フィート(約3000メートル)、速度120マイル(約184km/h)で一路北極点へ。機内は狭く、空気が薄い為か頭が痛くなってくる。

1245 
  北緯
8157分、海上に出る。大きな氷の割れ目(リード)が数mから数100
   mの幅で川のように走る上を飛ぶ。大場さんが歩く道筋を一つ間違ったらそ
  れ以上進め
ない。高さも数10mはありそうな乱氷でできた氷の断がいが口を
  開いている。

1435
   頭が痛く、プロペラ音がうるさいがいつの間にかうつらうつらしている。
   機内はガソリンタンクの中にいるようにガソリンの匂いが充満している。

1515
   下はよく見えず雲が出ている。大場さんのいる地点の視界が気になる。

1630
   ラス機長からトランシーバー用意の声がかかる。
  「あれ!ちょっと早いか
な?もう着いたのかな?」
  という感じだ、トランシーバーで呼び出し開始。

   私・・・・・
    「大場さん聞こえますか?聞こえたら応答願います、志賀です」

   その後20秒位待つ、また呼び掛ける。10回、20
  とくり返すうち、本当に
つながるのか?聞いてくれ
  いてるのか。不安になる、それでも続ける。
30
   目位に突然声が入る

大場さん・・「聞こえます、志賀さん 大場です。」

   元気な声だ、はずんだ声だ、長く待っていた声だ。私の横で凍傷の手当ての
  為
に来てもらったテリーさんが大場さんのテントを見つけた。大場さんの姿
  を
見る事は出来ない、飛行機はあっと言う間に行き過ぎた。

私・・・・・「大場さんのテントを確認しました。間もなく降りますので安
         心して下さい」

大場さん・・「いやあ助かりました。食料無くなって今回はもう駄目かと思
              いました。2日間何も食べてないです。本当に助かりました。」

長かった補給の準備。フライトの決定迄の数日間ユーレイカからの長時間のフライト、こういった苦しかった事が全て消え、嬉しかった。ひたすら嬉しかった。

私・・・・・「着陸しますので滑走路の状態を知らせて下さい平らな滑走路
              は350m以上ありますか?」

大場さん・・「志賀さん今パーカーを着て外へ出て着陸出来る場所を探しま
              すので5分、いや10分待って下さい」

返事をラス機長に伝える、チャーター便ツインオッター機には、有り余る程の燃料は積んでない。着陸して片方のエンジンを止めずに居られる時間は30分〜45分だ。大場さんはのんびりしている、私の頭は真っ白になりかけた。補給便を待つ場合は幅30m長さ350m以上平らな滑走路が必要だ。なければ1200kmもの帰路分の多量の燃料を積んだ飛行機は離着陸が出来ない。理由は分からないが大場さんのテントの場所は、旋回してみる限りでは着陸できそうもない。しかし大場さんが、滑走路を捜すのを待っている時間は無いのだ。

予想もしていなかった事態だ、この時ラス機長が私に言った。「テントから2マイル(約3.2km)離れた場所に着陸するので大場さんに伝えてほしい」すぐ大場さんに伝える。すでにツインオッター機は着陸体制に入っている。着陸に失敗したら機内の山のようなドラム缶につぶされるのを一瞬想像した。考える間もなくすべるように着陸した。車輪でなくスキーで降りる滑らかさだった。

機内からトランシーバーで呼びかける。トランシーバーは全く通じない、着陸してしまったせいか、大場さんが切ってしまったのか、不安になりすぐに外へ出て呼び出すが応答がない。ラス機長が大場さんのいる方向を示してくれた。降りた所は非常に平らな場所で長さは250m位の円の中、回りは1.5m位の氷の壁に囲まれている。私はすべりながら氷と雪の壁の上に上がり呼び続ける。

大場さん・・「聞こえますよ志賀さん」

雑音の中に大場さんの声!だんだんはっきり聞こえて安定してくる。

大場さん・・「これからどうしましょうか?」
   私・・・・・「こちらに歩いて来てほしいのですが。来れますか?」
   大場さん・・「歩けますが昨日から何も食べて無くて腹がへって腹がへって、
             それと着陸時の場所を確認してないんで方向がわかりません。」

改めて私の回りを見る。全てが雪と氷、少しもやがかかって、遠く迄見る事が出来ない。ツインオッター機はすでに機内のドラム缶より機体へ燃料を移し変えている。その間に大場さんとトランシーバーで打ち合わせる。

大場さん・・「食料、燃料はどの位持って来ていますか?」
   私・・・・・「食料35日分、燃料40日分、その他前回補給時要請の全て
              持って来ています」
   大場さん・・「そりは?ハーネスは?ロープは?」

続けざまに質問が来る、答える、風は冷たくトランシーバーのマイクのあたりに氷が着き始める。時間は着陸してすでに20分位経過している。

ラス機長は「大場さんが歩いて来るのが一番いいんだが」という。ラス機長に「GPSで位置確認の為の座標がほしい。」と話すと機長はすぐに機内に戻り座標をメモしてくれる。北緯89度13分58秒 東経27度56分45秒、これが今いる場所だ。この間に大場さんに体調の確認をする。

大場さん・・「腹がへっているだけで全て問題ない」

との返事、相当腹が減っている様子だ。前回の食料補給はちょっと足りなかったようだ。その状態を聞いて歩いてこちらへ来てもらうのを断念。

私・・・・・「上空より投下しましょう」「必要な物は?」
   大場さん・・「全部ほしい」

それを機長に伝えると「それは時間もかかるので不可能」との返事。

  私・・・・・「それではボックス4ヶと寝袋に包んだ無線機をお願いします」

再度機内へ荷物を積み込むすでに着陸してから30分は経っている。

あっという間に時間が過ぎる。大場さんからは「なぜ補給が5日かかったか?」等の質問もある。寝袋の中に全てについてメッセージがある事を伝える。さあ離陸だ、氷の円型の一番はしから離陸開始。パワー全開で半分をちょっと走った時点で急ブレーキ、飛行機の前が重くて離陸出来ない。全員席を後ろへずれてほしいと副操縦士に指示され大急ぎで後へ。

本当に重いのだ。再び離陸、パワー全開、うなり声をあげながら、氷の壁の数メートル上を通過する。この時、失速速度を知らせるブザーがなる。ヒヤヒヤだ。

大場さんのいる上空を旋回し始める。これから5ヶの荷物を飛行機から投下するのだ、視界がいい時には数メートルからの投下もできるそうだが、視界が悪い。今は、2030メートルの高さからしか投下出来ない。

食料は大丈夫だが一番心配なのは無線機。これが使えないと叉次の補給時、天候、滑走路の様子、大場さんの状態などがつかめず大変だ。壊れる事を考え投下するのをやめて先程の着陸地点に置く方法も考えたが、昨日迄の一日20km近い氷の動きと大場さんの疲労を思うと、置いてくるのは決断出来なかった。食料、燃料の補給優先の決断だった。ようやく無事5ケの荷の投下を済ませる。

無線機を手渡しできなかっいたのが、少々悔やまれる。無線機が壊れていなければと願うのみだ。旋回するツインオッター機の窓から見た大場さんはテントの脇を歩いており、数メートル脇に無線機とメッセージの入った寝袋が見えた、手を上げていたようにも見えた。すでにトランシーバーは通じなかった。大場さんは元気だ!そう確信した。

大場さんと別れ30分程飛んだ時、テリーさんが「今、北極点の上だよ」と機内のGPSを指差した。そこには90Nと数字が見えた。この時私の頭は補給が終わって気が抜けたのと旋回をくり返したせいで、飛行機酔いで全ての事に反応が鈍くなっていた。そんな頭の中に浮かんだのは大場さんが沢山の食料をみながらうまそうに食べている顔だった。


大場さんと無線で確認できた事項はこちら・・